2009年12月15日火曜日

自啓ノート(10) ~接遇の基本-技術サービスも~

12月15日

「神が人間にのみ与え給うた二つの能力、それは新しいものを創り上げる能力、そして人にサービスすることの出来る能力である。」
この言葉は、三井造船の相談役をされていた頃、中曽根内閣の第2臨調(第2次臨時行政改革調査会)で第2部会(行政組織及び基本的行政制度の在り方)の部会長を務め、JR東日本の初代会長に就任した山下勇氏の言葉である。彼は、当時の国鉄の時代錯誤で旧態依然たる設備や考え方を、ものの見事に改革した国鉄改革の第一の立役者だった。
彼は、「JRにおける乗客へのサービスは、言葉や態度だけではなく、技術に裏打ちされた技術サービス産業でなければならない。」と言われ、さらに「技術の根源は、ものづくりにある」という信念から、JRの中に車両の新造部門までも造られた。
首都圏を走る京浜東北線、山手線、中央線、総武・中央快速線など大部分の電車は、新潟県にある新津車両製作所で製作されたものである。通勤地獄の緩和を考えた素晴らしい電車だ。この基地を起点に、JR東日本の技術サービス事業は着実に進歩を遂げている。

さて、タイトルに掲げた「接遇の基本-技術サービスも」にある「接遇」は、多くのお客さんに接するデパートの接客係や役所の窓口などでの対応のことを示すが、ここでは特に医療現場における患者やその家族と接する場面での接遇について考えてみよう。
病院の接遇は、医師を始めとする医療部門や事務部門の担当が、患者の肉体的・精神的な痛み・苦しみ・悩み等を真剣に分かろうという気持ちで、目の前の患者に向き合うこと。患者の持つ不安や疑問、不平不満等の声に対して、患者の身になって真剣に耳を傾けることから始まる。患者のそれらの声に対して的確なアドバイスを提供し、相互のコミュニケーションとインフォームド・コンセントにより、患者や家族の方が納得したスムーズな医療が行われるようになれば、心のこもったいい接遇が出来たことになるのだと思う。

病院は、今「淘汰の時代」に入っている。生き残り競争(サバイバル)の時代に入ったと言っても過言ではない。病院が患者を選ぶのではなく、患者或いは社会が病院を選ぶ時代になっている。
選ばれる病院となるためには、並大抵の努力では難しいといわざるを得ない。医療技術の向上はもとより、医療サービスの質の向上が評価を受ける病院になる。つまり、医療技術が信頼の第一要因ではあるが、これからは、接遇対応の質の向上が今以上に強く求められる。「心の温かさ・優しさ・いたわり・愛情」を持って接することが、選ばれる病院の大きな要素である。
接遇は、「言葉」と「態度」で表現される。
素直な気持ちでする「はい」という返事、朝一番「おはようございます」の挨拶、患者の顔を見て「いかがなさいましたか」と迎え入れる優しい声掛け、「お待たせいたしました」というお詫びの言葉、「ありがとうございます」の感謝の気持ち、「お大事に」といういたわりのことば等々、夫々の場面に応じた挨拶や言葉が、相手の気持ちを解きほぐし、この病院で診てもらってよかったと思われるようになるものだと思う。
服装、身だしなみ、器具や設備を扱う動き等にも、優しさや温かみが現われる。患者に信頼される手技と態度そして言葉づかい、全ては患者のためにと思う気持ちの表れである。
病院というもの、折角神が我々に与えてくれた「人にサービスすることの出来る能力」をフルに発揮して、“地域の人々に親しまれ信頼される病院”を目指し、心を込めた接遇に努めてもらいたいと思う。
病院も技術サービス産業の最たるものの一つでもある。患者は早く治ることを最も期待している。そうではあるが、最も流行る病院というのは、患者や家族を安心させてくれる病院ではないだろうか。

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